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Sat May 23

創作落語的Novelette 「六本木のさんま」

六本木界隈じゃあ、ちったァ名のしれた熊公ってぇ男がおりました。 男は宿無し金なし何にもなしで、世間様歩きますってェとなにぶん汚ねぇ格好でおりますもので、人は寄り付いてきません。 しかも男が普段縄張りにしておりますのは天下御免の六本木。 御天道様が顔を出したらミッドタウンの芝生で大の字で寝転がり、半ドンなったらコンビニに顔を出し御相伴に預かります。 暮六時を知らせれば交差点へ向かい物乞いをする、なんてぇ日々を続けておりますと不思議な縁もあるものでございます。 たまたま男の前を通りかかった一人の男が立ち止まり

「おにいちゃん、こないなとこでなにしてんのや?」

熊公は顔を上げると、見知らぬ男が目を細めてこちらを見下ろしております。

「あたくしは、金なし宿無し仕事なし、無い無い尽くしでこうして物乞いをして凌いでおります。旦那さん、どうか私めにご慈悲を。」

「ほーう、そうか、アンタなんや景気の悪いツラ下げて、人に金タカろう思てんのや。 アホかいな。 ええか、人間っちゅうのはな、生きるゆうんはシンドい事や。 そら誰もが感じてる。 せやけど人はおまんま喰うていかんとアカンようになってまうねん。 せやからみんなシンドいの我慢してよう頑張ってはんのや。 僕、思うねんけどな、人って生きてるだけで丸儲けや思うてまんねん。 今日の次は明日があんねん。 せやからな、そんな顔せんと、景気よう行こうや、なっ。」

通りすがりの見知らぬ男に人生を諭された熊公。 男は財布から伊藤博文を出し

「これで何かええもん…アホ、なんで今伊藤やねん、諭吉ちゃうんかいっ!!って、何や兄ちゃんノリ悪いのー。シャレにきまっとるやんけ。そしたらゆきっちゃんと、飴ちゃんも付けとこか」

熊公はされるがままに受け取ると、

「ありがたく頂戴致します。何とお礼を申して良いのやら。失礼では御座いますが、旦那様のお名前は…?」

男は少し戸惑った様子で

「なんや兄ちゃん、僕の事しらんのん?それ、野球やってて阪神知らんのんと一緒やで。 まぁ、ええとしょ。 僕、さんま言いまんねん。 まずその金でテレビ買い。 ほんだら僕の事よう解りますわ。 そしたら、もう行かなアカンよって、ほなまたな。仕事探しぃーや」

熊公は頭をコンクリートの地面に擦らせ、涙を流しました。 その夜は浮浪者の集会に顔を出すと、開口一番

「俺はシャバに戻ることにしたよ」

周りの仲間は反対しましたが、その半年後、熊公は仕事を得て、新たな人生を走り始めました。 あの時男から受けた金には未だ手をださず、テレビも買ってはおりませんので男の正体は知らぬままではありますが、落ち込んではその日の夕飯に秋刀魚を焼いては一人呟いておりました。

「やっぱり秋刀魚は六本木で喰うに限るな」