創作落語的Novelette 「Bye,Bye,Blackbird 」
或るところに、これまたおかしな野郎がおりまして、その名を与太郎と申しました。
男の名は隣町まで響き渡り、こんな小さな赤子までもが阿呆の与太郎と罵る次第で御座いました。
ある時、与太郎のおります町に上方から来なすったお殿様が旅の道中、宿を探しにおいでなすりました。
なにぶん小さな田舎町でございましたので、お殿様のお眼鏡にかなう宿など御座いません。
しかしながら、辺りは暗く夜もふけて参りましたのでこれは致し方ないと、町で唯一の小さな宿屋に向かいました。
「御免、主人はおるか。」
突然の来客に宿の主人は戸惑いながらも、
「へい、お呼びいたしやしたでしょうか?」
「うむ、実はな、急な話で悪いのだが、都より参られたお殿様の宿を探しておってな、部屋を用 意して貰いたいのだが。」
「左様でございましたか。この様な汚い宿で宜しければ、どうぞお使いくださいまし。」
「左様か。うむ、それは良かった。所で、この宿で一番の部屋はどこじゃ?」
主人は少し戸惑った様子を見せますれば、
「大変申し上げにくいので御座いますが、実は其方にはお江戸のお殿様が何日か前よりお使いで ございまして、私の様な者ではとても部屋を移れ等とは申せません。」
「何と。その江戸のお方、名を何と申す?何石程の城主じゃ?」
「いえ、それがお江戸のお殿様、お忍びでいらしておられますもので、私の口からは何とも。 どうでしょう?ここは一つ、お侍様方もお忍びでいらした、という事で互いに内密になさりまし て、お江戸のお殿様が驚かれる程の小判をあちら様に渡し、ひとつ器の違いを見せつけてみると いうのは。 そこに一言私が申し上げれば、部屋を移って下さるかと思いますが。」
男は暫く考えあぐね、背に腹は代えられん、と言った具合に、
「そうじゃな、では、まず500両持って行け。相手方の様子を見ようではないか。」
「かしこまりました。それでは早速、お話を通して参ります。」
主人は部屋の奥へ参りますと、暫くして悲鳴を上げながら、
「お待たせ致しました。お江戸のお殿様に小判を、とお供のお方に申し上げた所、殿はこんな端 金など見向きもせんわ!と有無も言わせず返されてしまいました。」
「何?たかが部屋を移る為に500両出すというのに、何と意地の悪いお人じゃ。では、いくらな ら動くのかを聞いて参れ。」
すると部屋の奥へ消えた主人は、またしても悲鳴を上げて戻ってくると、
「ご、5千両は無ければ話にならないと...」
「何?5千両じゃと?富くじでも1千両だと申すのに。 ええい、江戸の城主になめられてはたまらない。それ、5千両じゃ。持っていけ!」
主人は恐る恐る千両箱を一つずつ丁寧に奥の部屋へ運ぶと、今度は悲鳴どころか話し声も聴こえないほど静かに事が運んでいる様子で、
「全く、部屋を一つ都合するのにこんなに金が掛かるとは。しかし、仕方が無い。
これ以上殿をこんな汚い町中に待たせておく訳にも行くまい。」
かれこれ半刻ほど時が経ち、さすがに痺れを切らせた上方の殿様とお侍は、部屋の奥へと話をつけに参りました。
しかし、そこには人どころか簞笥の一つも見当たりません。
おかしいな、と思い、家中探り回りますが人っ子一人見当たりません。
「おい、これは一体どういう事じゃ?」
「いや、私目にもさっぱり...」
実はこの宿の主人こそが、阿呆で有名なあの与太郎。
手に入れた5500両と家の道具を大八車に乗せまして、一つ山を超えようというところでございま した。
大八車の上には汚い婆様が遠くの空を眺めております。
何故街であれほどまでに阿呆、阿呆と言われ続けた与太郎にこんなずる賢い真似が出来るので しょうか?
阿呆と言われる原因と申しますのが、この婆様。
この婆様も街では有名な意地悪婆さんで、何かに付けては人に文句をたれますれば、嫌われ続け て一人孤独に暮らしておりました。
そこに一人街で唯一の宿を営む与太郎は、隣に住むこの婆様に、店の売り上げやら飯の支度をし てやったりと、随分と面倒を見ておりましたので、他人様にあそこまで目をかける与太郎を、街 の人々は阿呆な事をする男だ、と言って二人を避けていたので御座います。
「あんた、なんで儂を連れて山越えとるね?」
「何でって、こんな大金せしめてきたからにゃ、遠くへ逃げでもしねぇと切られちまうだろ?」
「別に儂は逃げたくもないがね。」
「何いってんだよ母ちゃん。これで一生幸せに暮らせるでねぇか。」
「儂の息子はとうに死んだよ。」
この婆様、女手一つで一生懸命仕事をし、その反動もありボケて息子の事も忘れてしまったので す。
「母ちゃん。苦労かけたな。」
完